<   2005年 04月 ( 3 )   > この月の画像一覧

 

ラ・プティット・バンド

4月20日、久しぶりにラ・プティットバンドに出演しました。

この日はルーヴァンの聖ピーター教会に設置される予定のオルガンのお披露目で、ルーヴァン市のオーケストラであるラ・プティット・バンドがちょっとしたコンサートを市から仰せつかった、という次第。

曲目はバッハのブランデンブルグ協奏曲第6番と第5番。

この日の眼目はなんと言ってもシギスヴァルト・クイケンがチェロ・パートをヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ(violoncello da spalla)あるいはヴィオラ・ダ・ポンポーザ(viola da ponposa)ともいうべき楽器で演奏したこと。
c0059690_765265.jpg

バッハの記述に出てくる謎の楽器、ヴィオラ・ダ・ポンポーザは恐らくこのような楽器であったらしい。そしてこの楽器は今、17世紀から18世紀初頭にかけてのヴィオロンチェロという楽器の観念を揺るがせている。すなわち、その時代、バッソ(basso)あるいはヴィオローネ(violone)と書かれたパートは今私たちが知るバロック・チェロに近い楽器(もう少し大型の場合が多い)で弾かれていたが、「ヴィオロンチェロ」と書かれた場合、いわゆる足に挟むバロック・チェロではなく、ここに見る「スパッラ」型の楽器を指していたというのだ。ちなみに「スパッラ」とはイタリア語で「肩」の意。すなわち「肩(にかける)チェロ」。

バッハの曲に「ヴィオラ・ダ・ポンポーザ」を指定されたものはない。それゆえ、この楽器はいかなるときに使われたのか、謎は深まるばかりだった。しかし、カンタータの中で、「ヴィオロンチェロ・ピッコロ」すなわち「小さなチェロ」のオブリガート付きのアリアが何曲かある。これらの曲のチェロ・ピッコロのパートはパート譜では通奏低音ではなく、なんと第1ヴァイオリンのパートに書かれているのだ。となると、演奏テクニックはチェロよりははるかにヴァイオリンに近いこのヴィオロンチェロ・ダ・スパッラという楽器、これこそがバッハの言う「ヴィオラ・ダ・ポンポーザ」だったのではあるまいか?そして、チェリストではなく、ヴァイオリニストが演奏したのではないか。ちなみにバッハの楽器は5弦だったといわれるが、通常は4弦で、調弦、音域はまったくチェロと同じ。五弦の場合はそれに5度上のEの高音弦が足される。
シギスヴァルトのものはこの5弦タイプだ。
c0059690_782367.jpg

そしてこの楽器はバッハのヴィオラ・ダ・ポンポーザといわれるホッフマンの楽器をモデルにしており、通常のスパッラの中では小型のもののようだ。当時の銅版画などを見ると、もっと大きな楽器をこのように構えて演奏しているのがしばしば見られる。
c0059690_7351252.jpg

さて、演奏はというと、通常非常にアンサンブル、つまり「合わせること」の難しいブランデン協奏曲第6番、これはひとえに第3楽章のチェロパートの難しさによるものだが、 これが2つのヴィオラと、スパッラという3台のヴァイオリン型テクニックの楽器で演奏されたことにより、ボウイングのテクニックの類似性からか今までよりもはるかにアンサンブルがしやすかった。そしてスパッラの音の軽やかさにより、アンサンブル全体に透明感がでた。
そして、チェンバロをはさんで左側に2本のヴィオラ、とスパッラ、右側に2台のガンバとヴィオローネというように、ステージの右と左に、ヴァイオリン族、ガンバ族が分かれて並んだ配置も視覚的に効果的であったように思う。
c0059690_7102951.jpg

この楽器はブリュッセル在住ロシア人製作家でヴァイオリニスト、元ミト・デラルコの第2ヴァイオリン奏者、ディミトリー・バディアロフ氏が作ったもの。シギスヴァルトは1年ほど前に手に入れ、練習を積んできた。今回はその成果が着実に現れていたと思う。音量、音程、表現、全てにおいて説得力が増していた。

さて先ほどのヴィオロンチェロ=ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラの考え方を推し進めると、17世紀から18世紀初頭にかけてのすべての「ヴィオロンチェロ」のための音楽は、このスパッラで演奏できる、いやむしろたいていの場合、スパッラのほうがふさわしいともいえる。たとえばマッテゾンはスパッラを「通奏低音を弾くのに理想的な楽器」と定義している。
そしてチェロのための独奏曲、たとえばバッハの無伴奏チェロのための組曲。これらの曲はもしかすると「ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ」あるいは「ヴィオラ・ダ・ポンポーザ」を念頭に置いて書かれたものではないのか?
「スパッラ」や「ポンポーザ」のような特殊な名前を冠せず、単に「ヴィオロンチェロのための組曲」としているのは、「ヴィオロンチェロ」と言えばそういう楽器を指す、ということが当時の常識として当たり前であったからではないのか?

実際幾つかの部分で比べてみると、普通のチェロでは演奏が困難な部分、特に指使いの点で、をスパッラのヴァイオリン的な指使いに置き換えてみると、大部分が解決するらしい。
もちろん、スパッラにはまた別の演奏の困難さがあるのだが。
もちろん1番からは5番までは4弦しか必要ないので、恐らくは少し大型の、4弦のスパッラだったのかもしれない。6番は「5弦で」と明記してあるので小型の、まさにシギスヴァルトが使っているような楽器を想定していたのかもしれない。

実を言うと僕自身、この楽器に非常に興味を惹かれており、半年ほど前に注文をしました。
それが今や完成間近で来週にも出来上がろうという勢いです。
完成した際にはまた皆さんにご報告したいと思います。お楽しみに。
c0059690_711945.jpg

(スパッラのレッスン?? 僕が持つと「駅弁売り」に見えると言う意見あり)

さてこの日、僕が担当したのは第6番の第1ヴィオラと第5番のヴァイオリンソロ。
他に、秋葉美佳(第2ヴィオラ)、エヴァルト・デメイヤー(チェンバロ)、ヴィーラント・クイケン(ヴィオラ・ダ・ガンバ、バッス・ドゥ・ヴィオロン)などが出演しました。
[PR]

by boreades | 2005-04-29 07:20 | 雑記  

イル・ガルデリーノ スイス、ダルダニーでバッハ・デイ(Journee Bach)

4月24日
イル・ガルデリーノがスイス、ジュネーヴ近郊のダルダニー(Dardagny)というところに招かれ、ジュルネ・バッハ(バッハの1日)を催します。Dardagny在住のチェンバリスト、ミシェル・キネール氏の主催するフェスティヴァルです。

soloists: Jan De Winne, Marcel Ponseele, Ryo Terakado, Michel Kiener
ソリスト:ヤン・ドゥ・ヴィネ(fl)、マルセル・ポンセール(ob), 寺神戸 亮(vn), ミシェル・キネール(cem)
Bass: Stephan Macleod
バス:ステファン・マクロード

Violin 1 : Sophie Gent (ソフィー・ジェント)
Violin 2 : Mika Akiha (秋葉美佳)
viola : Deidre Dowling (ディエードレ・ダウイング)
Cello : Michel Boulanger (ミシェル・ブーランジェ)
Violone :Elise Christiaans (エリーゼ・クリスティアーンス)
Cembalo2 : Shalev Ad El (シャレフ・アド・エル)

11:00
Ouverture h-moll (管弦楽組曲 第2番)
Concerto for violin and oboe c-moll (ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲)
Triple in concerto a-moll (チェンバロ、ヴァイオリン、フルートのための三重協奏曲)

15:00
Symfonia F-dur bwv 49 (カンタータ第49番よりシンフォニア)
Cantata BWV82 "Ich habe genug" (カンタータ第82番「われは満ち足れり」)
Concerto for Harpsichord d-moll BWV 1052 (チェンバロ協奏曲ニ短調)

18:00
concerto for violon a-moll (ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調)
Brandenburg concerto no.5 (ブランデンブルグ協奏曲第5番)
Der Friede sei mit dir BWV 158 (カンタータ第158番)

それに先立つ4月22日には同じスイスのClusesというところでコンサートです。

20:00 Concert Maison des Allobroges in Cluses

Brandenburg Concerto No.5 D-dur BWV 1050
Cembalo Concerto d-moll BWV 1052
Double concerto for violin and Oboe c-moll BWV1060
Triple Concerto for flûte violin and harpsichord a-moll BWV 1044
[PR]

by boreades | 2005-04-13 08:00 | コンチェルト  

グラウン、コンチェルト集録音終了!

オーボエのマルセル・ポンセール、フルートのヤン・ドゥ・ヴィネが主宰するベルギーのグループ、イル・ガルデリーノ(Il Gardellino)によるカール・ハインリヒ・グラウン(Carl Heinrich Graun)1703-1759の協奏曲集の録音がオランダ、ハーレムのドープスヘズィンデ教会にて行われました。レーベルはアクサン。

曲目はオーボエ協奏曲ニ長調、フルート協奏曲ホ短調、ヴィオラ・ダ・ガンバ協奏曲イ長調、コンチェルト・グロッソ ト長調の4曲です。

オーボエとフルートは主催者のマルセルポンセールとヤン・ドゥ・ヴィネ、ガンバはイタリアからヴィットリオ・ギエルミ氏が招かれました。
c0059690_4375932.jpg

このヴィットリオ氏、うわさには聞いていましたが大変なヴィルトゥオーゾです。僕の周りには優秀なガンバ奏者が何人もいますが、これほどのテクニシャンは初めてです。彼はなんと弓を飛ばす(跳ねさせる)テクニック、スピッカートをやってしまうのです!ガンバはチェロやヴァイオリンと違い弓を逆手で持ちますので普通はスピッカートはできないことになっています。
彼は12歳までヴァイオリンを習っていたそうで、そのヴァイオリンのテクニックから難なくヴィオラ・ダ・ガンバでもスピッカートをマスターしてしまったそうです。もっとも、スピッカートがガンバのテクニックに必要かどうかはまた別問題ですが、今回のグラウンのような後期バロック、ギャラント様式には非常に効果的でした。
左手のテクニックも抜群でフレットがなくなるハイポジションでもオクターヴ以上上まで難なく音程が決まります。
その上、ものすごく大きな音!チェロをも圧倒するほどの音量です。彼の楽器はなんと、かのサント・コロンブも使っていたというコリションという製作家の作ったオリジナルだそうです。

録音では、特にフルート、ヴァイオリンとガンバ、チェロの二組にコンチェルティーノ(小さなグループ)が分かれるコンチェルトグロッソで彼の大きな音と他の楽器とのバランスをとるのに苦労してしまいましたが。
そしてそのコンチェルト・グロッソにはもう一人、リピエーノのヴァイオリンとしてスティーヴン・フリーマン氏が参加してくれましたが彼はオーストラリア出身で僕の最初期の生徒でした。現在アムステルダム在住。図らずも現在と過去二人の弟子との共演となり幸せな時間でした。
c0059690_4435981.jpg


コンティヌオにはいつものシャレフ・アド・エル氏のチェンバロのほかにヴィットリオのお兄さん、ロレンツォ・ギエルミ氏がジルバーマンのフォルテピアノで参加してくれました。
彼はオルガニストとして有名で、日本にも何回も講習会や、東京カテドラルのオルガン組み立ての立会い指導などで来日しているそうです。
c0059690_4484968.jpg


チェンバロと、フォルテピアノ、二つのコンティヌオによって面白いサウンドが実現しました。
c0059690_4495825.jpg


録音はアンドレアス・グラット氏と婦人のアデルハイト・グラットさん。写真はマイク・バランスをとるアンドレアス氏。
c0059690_4545084.jpg


「みんなー、がんばってやろうよー」 とは言ってません
c0059690_4591165.jpg


プレイバックを聴きながら疲れきった表情。どうして!?
c0059690_50370.jpg


そしてお決まりの食べ物ですが、ハーレムではイタリアン、タイ料理などを食べましたが、面白かったのはイタリア人のお二人はイタリアン・レストランでパスタやピッツァなどイタリアらしい料理を頼まなかったこと。ステーキや、エビのグリルをサラダとポテトフライト一緒にほおばっていました。あとから聞くとやはり、メニューのイタリア語の間違いなどを見て、パスタは危ない(茹ですぎなど)と思ったそうです。さすが!
そして行きと帰りの道すがら、シャレフ、秋葉、僕の3人はデン・ハーグの僕の行きつけの中華で舌鼓。
空芯菜の炒め物、カモのロースト、牛の大腸のパリパリ揚げ
c0059690_545965.jpg

エビと豚のすり身の湯葉巻き
c0059690_5112557.jpg

鴨の足(!)とエビ、豚のすり身、チャーシューの湯葉巻き
c0059690_5115938.jpg

どれも絶品です。ハーグの中華はレベルが高いです。
[PR]

by boreades | 2005-04-12 05:10 | 雑記